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誰の一日も“特別”に変えてくれるアルバム
「EPIC」という言葉には、本来「壮大な物語」という意味があり、最近では「伝説級の」「ものすごい」というカジュアルな表現としても使われている。
B’zが19枚目のオリジナルアルバムに『EPIC DAY』というタイトルをつけたのは、誰か特別な人の特別な日ではなく、誰の日常も“壮大な一日”にできるという想いが込められているからだろう。
『EPIC DAY』には、勢いだけでは語れない深みと、年を重ねたB’zだからこそ鳴らせる熱さと優しさが同居している。
それぞれの曲が、退屈な日常を抜け出したい衝動や、胸の奥に残る切ない記憶、ひそやかな再出発の勇気を映し出しながら、聴く人の心にそっと寄り添い、明日を少しだけ前向きにしてくれる。
流行だけを追いかけるのではなく、何度聴いても「自分の今」と向き合える音がここにある。
今日をちょっとだけ特別に変えたいとき、このアルバムをぜひ聴いてほしい。『EPIC DAY』は、誰の日常にも小さなドラマをくれる一枚だ。
Release:2015.03.04

※本記事では、B’zのアルバム『EPIC DAY』に収録された各楽曲について、歌詞の一部を引用しながら、その表現やメッセージについて考察しています。引用にあたっては、著作権法第32条に基づき、正当な範囲での引用を行っております。
表現される感情
【希望に満ちた】×「Las Vegas」
ギラつくネオン、眠らない街、どこまでも自由な空気。
「Las Vegas」というタイトルは、現実からの逃避願望や、くすぶる日常を抜け出して“新しい何かを始めたい”という強い衝動を象徴している。
B’zの19thアルバム『EPIC DAY』の幕開けを飾るこの楽曲は、そんな非日常への憧れを、ゴージャスかつ痛快なハードロックサウンドで一気に解き放ってくれる。
軽快なイントロに続いて飛び込んでくるのは、ブラスセクションを大胆に取り入れた70年代風のロックンロール。骨太なギターのグルーヴに煌びやかなブラスが重なり合い、聴く者の心を一瞬で“旅の始まり”へと連れ出してくれる。
「Red Bull Air Race」のテーマソングとして選ばれたのも頷ける、スピード感と高揚感が交錯する名オープナーだ。
心の奥を照らすネオンの音『Las Vegas』から始まるEPICな旅
Aメロでは、誰の生活にもあり得るような日常の風景を通して、身近な寂しさや空虚さが静かに描かれている。
さみしげなアーケードに
ヒットソングが響いてる
通り抜ける僕には
昔の活気などわかんない
「昔の活気などわかんない」と言い切るその視線には、懐かしさではなく、どこか冷めた距離感がにじむ。
どの町にもありそうな風景の中で、大きな感情は語られない。だからこそ、居場所のなさがじわじわと伝わってくる。
その静かな違和感が、「どこかへ行きたい」という小さな衝動を生んでいるのかもしれない。
Bメロで描かれるのは、日本のリアルな夜の街角の風景。
この背中照らすのは
パチンコ屋のまばゆいネオンサイン
背中を照らすのは、非日常のきらびやかさ、欲望、自由、そんな世界的なカジノとエンタメの象徴である「ラスベガス」の光とは程遠い、パチンコ屋のネオンサイン。
その対比が、主人公の立つ場所、等身大の現実をいっそう際立たせている。
サビでは、それまで抑えられていた語り口から一転し、心の奥にあった衝動があらわになる。今とは違うどこかへ向かいたいという気持ちの高まりが、まっすぐに表現されている。
ラスベガス 呼んでいる
夢の中 誰かの声
ラスベガス 行かなきゃ
時間はあとどのくらいある?
錆び始めたこの愛車で
とりあえずどこまで行ける
気がむけば won’t you come with me?
「時間はあとどのくらいある?」という問いかけには、自由や若さが永遠ではないことへの焦りが滲む。
頼れるのは「錆び始めた愛車」だけだが、それでもとりあえず走り出したいという勢いが感じられる。
そして最後の「気がむけば won’t you come with me?」という軽やかな誘いには、ひとりで飛び出す覚悟と、誰かと一緒にこの衝動を分かち合えたらという、ささやかな願いが同時に息づいている。
現実と非日常のはざまで揺れ続ける想いこそが、「Las Vegas」という曲の核心と言えるだろう。
『Las Vegas』レビューまとめ
日常の片隅にある静かな違和感と、それを抱えたまま遠くを目指したいという衝動。
そんな誰の心にも潜んでいる思いを、骨太なロックと華やかなブラスで一気に解き放つ一曲だ。聴き終えたあと、きっと少しだけ自分の背中を押してくれる。
そして、あの日の旅の始まりを、いつでも心の奥で思い出させてくれる一曲だ。

【ウキウキする】×「有頂天」
51st Single
Release:2015.01.14
B’zの51枚目のシングルとして2015年に発表された「有頂天」。ハードロック調のエネルギッシュなサウンドで、ライブでも大いに盛り上がるナンバーだ。
タイトルの「有頂天」は、ただ気分が高まるだけの言葉ではない。その言葉が示すのは、冴えない日常を一気に突き破る、刹那の爆発力だ。
歌詞に描かれているのは、充実して見える誰かを羨みながら、自分を無理やり奮い立たせて生きる主人公の本音と葛藤。胸の奥に渦巻く不安や焦りを一瞬で吹き飛ばし、全てを忘れて心を燃やし尽くしたい。そんな生々しい衝動がこの曲には詰まっている。
曲構成も特徴的で、Aメロを二段階でじっくり積み上げ、サビで感情を一気に解き放つ流れが心を揺さぶる。重厚なベースと鋭いギターリフが絡み合い、B’zらしい疾走感と熱量を全身で浴びられる渾身のロックナンバーだ。
動けない心をもう一度、前に押し出す力がここにある
1番Aメロは、他人への羨望と、拭えない自己否定感をストレートに描いている。
「充実した日々を過ごしています」
そんなふうな人を見て いいねって yeah(yeah)
でも最後の最後 報われるのは 自分だとじている
半分以上無理矢理に
SNSや周りで「順調に人生を楽しんでいる人」への羨望と皮肉。
そんな人たちを眺めながら、自分にもいつか必ず報われる瞬間が来ると信じ込もうとするが、その自信は脆く、実際には無理やり気持ちを奮い立たせているだけ。
羨望と焦りの狭間で揺れる葛藤と、見せかけの強がりが滲み出ている。
2番Aメロでは、自身の弱さと、「君」がそっと差し出す小さな希望が、飾らない言葉で真っ直ぐに描かれている。
自分でダメ出しばっかり続けるのも
正直なところは I’m so tired, yeah(yeah)
ご存知のとおり 余裕のない
僕をまた励まして 君のその冗談で
余裕のない自分をそっと理解して、くだらない冗談で笑わせてくれる「君」の存在が、張り詰めた心をほどき、もう少しだけ頑張ろうと思わせてくれるのだろう。
サビで主人公が求めている「有頂天」とは、単に楽しいとか幸せというだけの気分の高まりではない。
今夜だけでもお願い 有頂天にならせて
君といる時くらいは 勇気に満たされたい
普段は他人を羨んだり、自分を責めたりして、自信が持てない主人公が、「君」という支えと共にいるときだけは、臆病な心を捨て、勇気で満たされたいと願う。
その一瞬の心の頂点、冴えない日常を一歩飛び越えるためのエネルギーの象徴が「有頂天」なのだろう。
3番Aメロでは、自信を失い迷い続けてきた主人公が、揺らぎながらも確かな決意を言葉にしている。
生きてくる方向を間違えたと
そんなことは思わない だって I got you, yeah(yeah)
どれだけ遠回りしても、たとえ不器用でも、「君がいてくれる今の自分なら、この生き方でよかった」と胸を張れる。
そんな小さな誇りと、守りたいものを見つけた人の強さが、この一節には込められている。
『有頂天』レビューまとめ
弱さを抱えたままでもいい。
「有頂天」は、報われない毎日にひとときの高ぶりをくれて、動けなかった自分をそっと前へ押し出してくれる。たとえそのエネルギーが刹那で終わっても、踏み出した一歩には確かな意味が残る。
一人では届かない感情の頂点へ。「ならせて」と背中を預ける、その小さな勇気をくれるナンバーだ。

【精力的】×「Exit To The Sun」
「Exit To The Sun」は、ストリングス調の美しいアコースティックバラードとして、聴く人の胸の奥にそっと光を灯してくれる一曲だ。
タイトルの「Exit To The Sun」は、直訳すると「太陽への出口」という意味を持ち、苦しみや暗闇から抜け出して、もう一度太陽の光を浴びようとする―そんな再生への強い意思が込められているのだろう。
NHK土曜ドラマ『ダークスーツ』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、現実に立ち向かう痛みと、諦めの先に差し込む小さな希望を繊細な言葉と旋律で描き出している。
穏やかに響くストリングスとアコースティックギターが物語を優しく導き、終盤のエモーショナルなギターソロが熱を添える。
傷ついても前に進む人の心に寄り添う、B’zバラードの真骨頂だ。
暗闇を越え、太陽へ―『Exit To The Sun』が紡ぐ希望の旋律
Aメロは、「夕日から朝日へ」 という時間の移ろいを通して、かつての温もりがすでに失われた現実を切り取っている。
君と見つめていた
あの赤い夕日が
冷たい朝日に変わり
そっけなく僕を照らす
「赤い夕日」は、君と分かち合った温もりの記憶。それが冷たく無機質な朝日に変わるとき、人は孤独と向き合わざるを得ない。
けれど、その冷たい光こそが、「Exit To The Sun」という新しい光の兆しであり、孤独の先に差し込む小さな出口でもあるのだ。
Bメロでは、誰もが心の奥に抱える理想と現実のずれが滲み出る。
“こんなはずじゃない”
そんなことは一度や二度じゃない
誰かを守るために
傷つけあう
人は誰かを守ろうとするたびに、望まぬ形で互いを傷つけてしまう。そんな矛盾や犠牲を背負いながらも生き抜く人間の弱さと強さを、そっと映し出している。
サビでは、どんな状況でも出口を探し、歩みを止めない人の強さが描かれている。
涙も枯れて力も尽きて
途方に暮れて
それでもどこか
出口を見つけ
歩いて行くしかない
人は、どんなに絶望しても、どこかに出口を見つけ、歩き続けるしかない。 どんな時でも心に残る小さな希望と、進み続ける強さを、まっすぐな言葉で伝えている。
ブリッジでは、絶望と歩みのその先にある、静かで確かな救いが表現されている。
どんなに時間がかかっても
やりなおせると知ってるから
どれほど時間を費やそうとも、きっと人生は何度でもやり直せる。
そんな小さくも揺るぎない信念が、聴く人にそっと背中を押してくれる一節だ。
出口の向こうに広がる太陽を信じる心が、ここに込められている。
『Exit To The Sun』レビューまとめ
アコースティックとストリングスの静かな抱擁から、エモーショナルなギターソロで熱を増してゆく「Exit To The Sun」。
涙も力も尽き果てた先に、それでも人は出口を探し、また陽の下へ向かう。
「Exit To The Sun」は、その歩みをそっと後押ししてくれる、B’zらしい優しくも力強いバラードである。

【集中】×「NO EXCUSE」
軽快に弾けるポップロックナンバー「NO EXCUSE」。タイトルが示す通り、その意味は「言い訳なし」。
「スミノフアイス」のCMソングとして耳にした人も多いかもしれないが、この曲の真価は爽快なリフの裏に隠された、稲葉浩志の“言い訳無用”の美学と、大人の遊び心にある。
ベースソロから飛び込んでくる骨太なグルーヴ、そして跳ねるように突き抜けるボーカル。どしゃ降りでも心配事があっても、弱さを決して表に出さず、ポーカーフェイスで走り抜ける主人公の姿が、ライブの熱気そのままに鳴り響く。
そして、これを歌うのが稲葉浩志だからこそ、「言い訳なし」という言葉に嘘がなく、聴く人の心に、ただ真っ直ぐに突き刺さってくる。
『NO EXCUSE』で言い訳ごと吹き飛ばせ!
A〜Bメロでは、「本当はもっとできるはずなのに」という誰しもが抱えるジレンマを、リアルな言葉で切り取っている。
何故なの これからって時に 調子が悪い
本当はもっとうまいんだよなんて
口にする程に惨め
一番肝心な場面で調子が上がらない。そんな自分への苛立ちと情けなさを、あえてストレートに吐き出すことで、「言い訳する自分が一番みじめだ」という感情を際立たせている。
サビでは、どんな逆境でも「絶好調」と言い切り、笑顔で立ち向かう主人公のプライドが詰まっている。
どしゃ降りでも心配事があっても
絶好調だと言い放つよ
風邪ひいても誰かが邪魔しても
ポーカーフェイスの盾をかざすよ
この世にゃ言い訳の入るスキなんてない
もう一回やらせてください
トラブルだらけの現実を前にしても、言い訳を口にするより先に、平然と“ポーカーフェイス”で挑み続ける。
そして極めつけが、「この世にゃ言い訳の入るスキなんてない」という一言。稲葉浩志自身の生き方を思わせる、甘えを許さないロックな信念がストレートに伝わってくる。
それでも完全無欠ではないからこそ、最後の「もう一回やらせてください」が効いている。あえてメロディに乗せず、自分の気持ちをそのまま吐き出すように歌うからこそ、聴き手には人の本音として伝わり、思わずクスッとしながらも背中を押される感覚になるのだろう。
『NO EXCUSE』レビューまとめ
どんなに調子が悪くても、恥をかいても、言い訳なんて必要ない。
「NO EXCUSE」は、そんな稲葉浩志の不器用でまっすぐな強さと、ちょっとした遊び心が同居した一曲だ。
爽快なリフと心地よいグルーヴに背中を押されながら、何度でも立ち上がれる自分を思い出してほしい。
不安や情けなさを抱えたまま、前を向いてもう一歩踏み出す勇気をくれるはずだ。

【そわそわする】×「アマリニモ」
夜の歩道を一人で歩いていると、ふと耳にした古い歌が、忘れたはずの記憶を呼び覚ます。
B’zの「アマリニモ」は、美しすぎていつまでも心に居座る記憶と、それを振り切って前へ進もうとする心の痛みを、柔らかなメロディに溶かし込んだ一曲だ。
アルバム『EPIC DAY』の中でも、ノスタルジックなメロディと軽快なリズムが胸の奥に余韻を残し、聴く人の孤独をそっと抱きしめてくれる。
誰かを思い出す夜にそっと寄り添い、明日へ向かう背中を押してくれる「アマリニモ」は、聴く人それぞれの記憶に静かに染み渡るポップロックナンバーだ。
その “あまりにも” が胸を締めつける
Aメロでは、都会の深夜に潜む“孤独とほのかな安らぎ”を、印象的に描き出している。
夜中の歩道に三々五々
散らばっている人の影
閉まった店に小さな灯り
とうに日付は変わってる
深夜の歩道に、少人数の人影がばらばらに、思い思いの足取りで散らばっている。「三々五々」という言葉には、人が一斉ではなく、小さな集まりで点在している様子という意味がある。
人の気配が完全に消えない都会の夜の空気と、どこか満たされない孤独感が、生々しく浮かび上がっている。
Bメロでは、思い出さずにいたはずの記憶が、ふとしたきっかけでよみがえる無防備さが描かれている。
流れてるとても古い歌
聞いてしまったよ
意識して聴こうとしたわけではなく、気付けば流れ込んできたそのメロディが、心の奥底にしまってあった思い出をゆっくりと呼び覚ましていく。
「聞いてしまったよ」という軽いつぶやきに、思い出す気なんてなかったのに、懐かしさに心を許してしまう弱さと優しさがのぞいている。
サビでは「I gotta go(行かなきゃ)」 という言葉を3回繰り返しながら、この場所にとどまっていては、君の記憶に足を取られてしまうという焦りと決意をストレートに吐き出している。
I gotta go, I gotta go, l gotta go
スピードをも少しあげよう
あまりにあまりにあまりにも
君がよみがえってしまうから
新しい日を待ち焦がれる
立ち止まればすぐに、あの頃の君が心の奥からあふれてきてしまう。だからこそ、ほんの少しでも速く歩いて、思い出を振り切ろうとする。
「あまりにあまりにあまりにも」 と重ねる言葉には、忘れたいわけじゃない、でも思い出すと苦しくなるほど美しい記憶への、どうしようもない愛しさが滲んでいる。
このサビは、聴く人それぞれの“忘れたくない誰か”を呼び覚ましながら、前を向こうとする小さな勇気をそっと手渡してくれる。
『アマリニモ』レビューまとめ
「アマリニモ」は、都会の深夜に滲む孤独と、思い出を振り切って前に進もうとする小さな痛みを、ノスタルジックで軽やかなポップロックのサウンドに乗せて描き出した一曲だ。
松本孝弘の繊細なギターリフが胸に心地よく絡みつき、稲葉浩志のまっすぐな歌声が、心の奥にしまっていた記憶をそっと呼び覚ます。
思わず立ち止まってしまいそうな夜にこそ聴いてほしい。
“あまりにも” 美しい思い出を抱えたまま、それでも新しい朝を待つ人の背中を、そっと押してくれるはずだ。

【やる気がある】×「EPIC DAY」
『EPIC DAY』のタイトルナンバー。
イントロを聴けば、Deep Purpleの名曲「Burn」へのオマージュがすぐにわかるだろう。リフの切れ味、オルガンとの掛け合いや、熱いギターソロ。
70年代ハードロックを愛し、そのエッセンスを吸収しながら技を磨き続けてきたB’z。だからこそ、松本孝弘のギターには一音一音に深い敬意が宿っている。高度なテクニックと溢れる愛情が重なり合い、意図的で肯定的なオマージュとなって、私たちリスナーの胸にまっすぐに、そのサウンドを響かせている。
EPIC(エピック) は、もともと英語で「叙事詩」「壮大な物語」を意味する言葉。近年では「ものすごい」「規格外の」「伝説級の」といったカジュアルなスラングとしても使われ、特にロックバンドの世界観と親和性が高い表現でもある。
『EPIC DAY』 というフレーズを直訳すれば「壮大な一日」「伝説的な日」。しかし、B’zがこの言葉をタイトルに選んだ背景には、単なる特別感だけでなく、どこにでも転がっている“何でもない一日”を、どこまでもドラマチックに塗り替えてしまおうという強い意思が込められているように感じられる。
夢なんて、簡単に叶うはずがない。
それを痛いほど知っているからこそ、B’zはあえて名曲「Burn」へのオマージュを刻み込み、何度倒れても立ち上がってきた自分たちの軌跡を証明してみせているのだろう。
これは、諦めかけた心に火をつけるための、B’z流ハードロックナンバーだ。
夢なんて簡単に叶わない―だからこそ鳴らす、B’zの『EPIC DAY』
Aメロでは、夢を語る前に、まず立っていなければならない現実の重さが描かれている。
厳しい暮らしだけど
情け容赦はいらない
呆れて出て行くあなたを
引き止められもしない
無様な自分に愛想を尽かして去っていく人を、引き止める力すらない。
それでも誰かの優しさにすがって甘えてしまったら、自分がもっと情けなくなるのがわかっている。だからこそ、痛みも孤独も引き受け、情け容赦はいらないと自分に言い聞かせながら、リアルでむき出しのスタートラインに立っている。
Bメロでは、自分を奮い立たせるのは誰でもなく、自分自身だというメッセージが突きつけられている。
強く賢く正直でいたいなら
鏡に映る自分
哀れんでちゃだめでしょ
ただ、自分で自分を誇れる人間でいたい。
現実に疲れ果てて、情けない自分をつい憐れみたくなる。でも、その甘さに溺れたら終わりだと知っているからこそ、心を叩き起こしていく。
サビでは、痛みを抱えて生きる時間を決して無駄にしないという強い意志が込められている。
そろそろ夢が叶う?
いやいや叶わない
痛みで彩るTime
無駄なの? 無駄じゃないの?
忘れたフリしてトレーニング
いつでもReady to go
イライラするのはNo
その気になればいいよ
100年に一度の
恋が実るようなEpic day
夢は簡単に叶わないと自分で突き放しながらも、いつでも飛び出せる自分でいようとする。
飾った言葉や複雑な理屈ではなく、あえてシンプルな言葉で自分を奮い立たせる。その積み重ねが、最後には「100年に一度の奇跡が起きるかもしれない」という小さなプライドへと変わっていくのだろう。
『EPIC DAY』レビューまとめ
Deep Purple「Burn」へのオマージュを隠さず刻み込みながら、70年代ハードロックへの敬意を、今のB’zらしい鋭さで塗り替えている。
この曲には、彼らが積み重ねてきた技術と音楽への愛情が鳴り響いている。
夢を簡単には叶えられない現実を突きつけながらも、だからこそ自分を信じて、何度でも立ち上がれと背中を押してくれる。難しい言葉は使わず、シンプルでまっすぐなメッセージが心に突き刺さる。
苦しみも弱さも、すべて抱えたままでいい。踏み出す勇気さえあれば、今日をあなたの“EPIC DAY”に変えられるかもしれない。

【思いにふける】×「Classmate」
転校生だった“君”に出会った日、単調だった毎日がそっと色づいた。好きなのに、どれほど大切な存在なのか、自分でも確かめきれないまま季節は過ぎた。
言えなかった想いは春とともに遠ざかり、戻ってきた夏にやっと伝えた一言は、優しい「ごめんね」に変わった。
B’z「Classmate」は、誰もが胸の奥に仕舞い込んだ“あの頃”をそっと呼び覚ます。
稲葉浩志の柔らかくも揺れる声に、ピアノとストリングスの音色が溶け合い、松本孝弘の繊細なギターがそっと寄り添う。過度な装飾はなく、それでも心を掴んで離さないアレンジが、忘れかけていた初恋の記憶を鮮明にする。
あの寂しさも、震えるような感情も、大人になった今の体を静かに包んでいる。泣いて、笑って、生きてきた自分の輪郭を、もう一度なぞりたくなる。そんな切なくて、美しい一曲だ。
もう一度、初恋に触れる。転校生と僕の、儚くも美しい青春のワンシーン
Aメロは、初恋の入り口のような、懐かしくてちょっとくすぐったい気持ちを、そっと思い出させてくれる。
転校生だと紹介されて 目の前に君は立ってた
蒼い心はざわつきはじめ また日々が色づいた
気づけば目で追ってしまって、胸がざわつく。相手を特別に意識した瞬間から、何気ない毎日が少しずつ色づいていく。
誰もが胸の奥に隠してきた初恋の予感と、思春期特有のざわめきが静かに息づいている。
Bメロは、誰もが経験する、あの頃の不器用さとすれ違いの記憶を思い出させてくれるパートだ。
好きだけれどどのくらい好きなのかわからなくて
そんなこんなで春が来て 僕らは離れた
気持ちを言葉にできないまま季節が変わり、気づけば距離ができてしまったことへの、ほろ苦い後悔と切なさが滲んでいる。
サビは、大人になっても消えない初恋の温度を、そっと確かめるように響いてくる。
忘れないあの寂しさ 震えるような感情
今でもこの体を やさしく包んでる
思い出すたびに胸を締めつける寂しさも、あの頃の震えるような感情も、不思議と今の自分をやさしく包み込んでくれる。
伝えられなかった想いや、不器用だった自分の姿もすべて含めて、今の自分をちゃんと形づくっている。
だからこそ、この曲を聴いていると、ふと立ち止まって「あの気持ちは今も自分の中に生きているんだ」と、どこかやさしい気持ちになれるのだろう。
『Classmate』レビューまとめ
あの頃の自分を思い出しながら、今の自分を少しだけ好きになれる。
「Classmate」は、そんな優しい時間をそっとくれる一曲だ。
ふと立ち止まりたくなったとき、あの初恋の記憶を静かに開いてみてほしい。きっと、何度聴いても変わらないぬくもりがそこにあるはずだ。

【心が休まる】×「Black Coffee」
夜が白み始める頃、まだ冷めきらない苦い気持ちを胸に、一杯のブラックコーヒーを飲み干す。
「Black Coffee」は、そんな新しい一歩を踏み出す前の心に、ほろ苦い勇気を注いでくれる一曲だ。
イントロから一気に引き込まれ、B’zらしいハードロックのエッセンスと、今の彼らだからこそ歌える“大人の苦さ”が同居するサウンド。
イントロからアウトロまで計算されたリフの展開、そして稲葉浩志のリアルな言葉が交わることで、聴き手の胸にしみ込む“ほろ苦さ”が心地いいロックナンバーだ。
目の前のコーヒーと同じように、冷たさも熱さも、そして苦みさえも丸ごと味わいたくなるB’z流の“大人のロック”がここにある。
ほろ苦い決意を注ぐロックナンバー『Black Coffee』
Aメロは、浅い眠りからふと目を覚ました主人公が、いつの間にか白んでいる空に気づく場面から始まる。
ぼんやり眠ってたら
空はもう白んできてる
君にもそして僕にも
それぞれに言い分があって
伝えきれなかった思いと言葉が胸に残ったまま、二人の間にはそれぞれの正しさや言い分が横たわっている。
すれ違いを埋められないまま迎えた夜明けのもどかしさと、心にわだかまる未練の苦さが、この後の“ブラックコーヒー”というタイトルそのものの味わいへとつながっていく。
Bメロでは、言い争いや誤解を抱えたまま、ついには気力を失って全てを投げ出してしまう弱さが描かれている。
しまいに疲れて
投げ出してしまう
埃にまみれるうんざりな一日
「埃にまみれる」という表現には、放置された感情や未解決の問題が心の片隅に積もり、身動きが取れなくなる、そんな息苦しさが込められている。
何一つ片付かないまま終わってしまった、疲れ切った一日を映し出されている。
サビでは、小さな期待を手放せずにいる主人公の心情が滲んでいる。
明日になったら何か変わるでしょうか
くだらない誤解を笑うような
氷がちょっとずつ解けるような
そんな夢 甘い夢
ノミホソウ
冷たい氷がゆっくりと溶けるように、わだかまりがほどけていく穏やかな変化をどこかで願っているのだろう。
けれど、それが結局は叶わない夢だと自分でも分かっているからこそ、甘さにすがることをやめて、苦い現実をそのまま飲み干す覚悟を決める。
本当は少しの甘さで苦味をごまかしたいのに、どれだけ夢を見ても現実の苦さは変わらない。そんな切なさが、「ノミホソウ」という一言に滲んでいるのだろう。
ラスサビでは、言葉にできなかった思いを、ためらいなくぶつけ合い、傷つきながらもお互いの本音に触れていく二人の姿が浮かび上がってくる。
正直な思いを残らずぶつけあい
悔いが残るほど傷つけあい
それでも少し前に進む
そんな運命 シブい運命
まだ見ぬ旅路があるのなら
しばらく歩いてみるのもいい
出発(たびだち)の前にもう一杯だけ
黒い珈琲 苦い珈琲
ノミホソウ
傷つけ合った先に何が待つのかは分からない。それでも心の奥に微かな熱を残したまま、旅立ちの前にもう一杯だけ、苦いコーヒーを口に含む。
その苦味は、昨日までの言い訳であり、今日を生きる勇気であり、そしていつかまた笑って話せる日の約束かもしれない。
全てを飲み干し、ほろ苦さを抱えたままでも進んでいく人間の強さと、まだ続く物語の余白が、聴く人の胸に静かに染みわたっていくだろう。
『Black Coffee』レビューまとめ
誰かと本音をぶつけ合い、傷つけ合い、それでもほんの少しだけでも前に進んだ明日を選ぶ。そんな人間らしさをそっと肯定してくれるこの曲は、きっと一度聴いただけでは終わらない。
イントロからアウトロまで溢れる熱を、何度でも味わい尽くしてほしい。
苦いコーヒーのように、聴けば聴くほど深い余韻が心に残る。 それが『Black Coffee』という一杯の真価だ。

【ありがたい】×「君を気にしない日など」
大切な人と長く一緒にいるほど、言葉にしなくなる想いがある。
この曲は、そんなどこかぎこちなくて不器用な愛情を、優しく広がるストリングスと心に沁みる重厚なサウンド、そして力強いメロディに乗せて、まっすぐな言葉で伝えてくれる。
なんでもない日常が、ふと愛おしくなる。何度でも「ありがとう」と伝えたくなる。
そんな穏やかな優しさに包まれた、大人のためのラブバラード。当たり前すぎて見落としてしまいそうな“君”の存在を、そっと胸に刻み直してくれる一曲だ。
『君を気にしない日など』が描く、大人の不器用で優しい愛情
Aメロでは、長く一緒にいる恋人や夫婦だからこそ感じる、リアルな距離感が描かれている。
おはようからおやすみまで
ずっとくっついているわけじゃない
素っ気ない人だと思うことあるだろうね
一緒にいる時間は誰よりも長いのに、当たり前の存在になりすぎて、つい素っ気なくしてしまう。気づけば優しい言葉よりも、遠慮のない態度ばかりが増えていく。
心の奥ではずっと「大事だよ」と思っていても、言葉にするのは少しだけ照れくさい。そんな誰もが覚えのある不器用な優しさが感じられる。
Bメロの一行には、照れ隠しのない真っ直ぐな愛情が詰まっている。
だけど手を繋ぎたいのは僕の方
大人になればなるほど、「手を繋ぎたい」と言うのは照れくさいものだ。
それでもあえて口にしてしまう、その一瞬の無防備さが、リスナーの心をそっと引き寄せていく。
サビには、恋のときめきではなく、信頼と絆で結ばれた大人の愛の確かさが、静かに力強く息づいている。
君を気にしない日などないよ
たまに会話もすれちがうけど
そんなことで気持ちは萎まない
きっと絶対に失ってはいけないものだと知ってるから
どれだけ会話がすれ違っても、思いが通じない瞬間があっても、そんなことで愛情が薄れることはない。
「君を気にしない日などない」と相手を想う気持ちは、日常の小さな衝突や誤解を悠々と越えていく。
愛している、と言うよりも深くて優しい、日常に寄り添う愛情がこのサビには込められている。
『君を気にしない日など』レビューまとめ
派手な言葉で飾らないからこそ、長く続く愛の本当の姿を静かに映し出している。
不器用で素直になれない時間も、すれ違う言葉も、すべてを抱えたうえで『君を気にしない日などない』と胸を張って言える強さと優しさが、この曲には息づいている。
この曲を聴くたびに、隣にいる大切な人の存在を思い出し、何気ない日常が愛おしく感じられるはずだ。言葉にしなくなった「ありがとう」と、変わらない絆の大切さを、そっと思い出させてくれるバラードだ。

【やる気がある】×「Man Of The Match」
アルバム『EPIC DAY』を締めくくるラストナンバー「Man Of The Match」。
直訳すると「試合の最優秀選手」という意味を持つこのタイトルは、誰かの輝く瞬間に触発され「自分も限界を超えたい」と奮い立つ主人公の心を映し出している。
その内なる衝動を、B’zはハードロックの躍動感に、ジャズの即興性と高度なスケールワークを融合させて描き切った。
とくに松本孝弘のギターは圧巻だ。彼らしい切れ味と、どこかジャズの余白を感じさせる自由さが共存していて、ただのハードロックに留まらない深みを曲に刻んでいる。
ただ激しいだけではなく、緻密さと熱量が共存するその音は、聴く者の心に「まだ足りない自分を、もっと高みへ引き上げろ」と語りかけてくるようだ。
「まだ足りない自分へ」B’z流エネルギー注入ソング『Man Of The Match』
オープニングは、何気ない日常のワンシーンから始まる。ジャズ特有の“曖昧さ”と“余白”が生む空気感が、胸の奥のざわめきを静かに際立たせている。
テレビで誰かがゴール決めて ウィニングスマイル
叫びをあげる姿に 気持ちを重ねる
心のどこかで「自分もあんなふうに何かを成し遂げたい」と思いながら、実際は安全圏から眺めているだけの自分に気づく。そんな羨望と小さな焦りが交錯する場面だ。
主役を眺めるだけの自分と、心の奥底でくすぶる「本当は自分も」という衝動が、静かに同居している。
しかし続くAメロでは、その抑え込んでいた感情が、音と共に一気に噴き出していく。
なんだか軽すぎるんだよ
この身も心も悪い意味で
考えるのを止めてから
毎日が楽勝に過ぎてゆく
プレッシャーのかけらもない
ここで曲は、ジャズの柔らかい質感から一転し、ギターとドラムが前に出る爆発的なロックサウンドへと切り替わる。この切り替わりの瞬間こそが、曲全体の「抑圧→解放」というテーマを象徴するキーモーメントになっている。
歌詞は、一見すると自虐的な独白だが、これは現状に満足しない自分を、ちゃんと見つめ直せる強さの表れだ。
自身の弱さを吐き捨て、楽な日々を選んだ自分をはっきり否定することで、もう一度自分に立ち向かう勇気を呼び覚ましていく。その導火線に火をつけるのが、爆発するロックサウンドと、稲葉浩志のパワフルな歌声だ。
Bメロでは、心の奥に巣食う「諦め」と向き合っていく。
コレデイイノダコレデイイノダ
ホントニコレデイイノ
コレデイイノダコレデイイノダ
デモナニモオコラナイネ
「これでいいんだ」と何度も自分に言い聞かせながらも、その響きには空虚さが滲んでいる。
同じ言葉を呪文のように重ねるほどに、心の迷いと矛盾が輪郭を増していく。
この感情の揺れが、続くサビでの感情の解放をより劇的にしていく。
自分の弱さを認め、安易な現状に揺らぎながらも、本音を飲み込んでいた主人公が、サビでついに覚悟をむき出しにする。
押し潰されるほどの
重荷をわたしにください
ユトリ溢れる日々
そんなのが今は怖いから
悶々と悩める自分を好きでいたい
誰かの眩しい瞬間を羨んでいるだけじゃ、何も変わらない。
楽な日々が自分を腐らせていく恐怖に怯えるくらいなら、痛みや葛藤にまみれてでも、自分をちゃんと生かしてやりたいと願う。悶々と悩める自分を、弱さじゃなく生きる証として抱きしめたい。
その刃のようなエネルギーは、ときに自分を傷つけながらも、弱さを切り裂き、もう一度自分を生かすための力へと変わっていくはずだ。
『Man Of The Match』レビューまとめ
「Man Of The Match」は、誰かの輝きに胸を熱くしながらも、同じ場所には立てない自分を、もう一度奮い立たせるための一曲だ。
ジャズが生む揺らめきとロックの爆発力が混ざり合い、松本孝弘の鋭いギターが弱さを断ち切る刃になる。稲葉浩志の叫びは、楽で退屈な日々を捨ててもいいと思わせてくれるほど、真っ直ぐで熱い。
楽な日々を捨ててでも前に進みたいとき、自分を追い込むその瞬間に、この曲はきっと頼れる味方になってくれるはずだ。

このアルバムを通して感じたこと
『EPIC DAY』を聴いていると、「まあいろいろあるけど、今日も悪くないか」って思えててくる。
元気が出る曲もあれば、ちょっと心にしみる曲もあって、どれも今の自分にちょうどいい距離感で寄り添ってくれる感じがした。
大げさに背中を押すわけじゃないのに、不思議と「もうちょっと頑張ってみようかな」って思わせてくれる。
なんでもない日をちょっとだけ特別にしてくれる、そんな一枚だと思う。

※本記事において引用している歌詞は、すべて松本孝弘/稲葉浩志によるB’zのアルバム『EPIC DAY』に収録された楽曲からの一部抜粋です。著作権は各著作権者に帰属しており、当サイトは正当な引用のもとでこれを掲載しています。著作権に配慮して歌詞全文の掲載は行っておりません。