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“立ち止まることで 見えてくるもの”
「FRIENDS」の続編として発表された作品。B’zの音楽の多様性をさらに広げる挑戦と、物語が詰まったコンセプトアルバム。
孤独、葛藤や停滞、焦燥感、 夢と現実の曖昧な境界線、そして決意と覚悟。
ネガティブな感情を肯定するリアリティが、リスナーの様々な感情と共鳴しながら、その感情を掬い上げ、新しい視点を示してくれるだろう。
Release:1996.11.25
Friends II
前作『FRIENDS』のプロローグ「Friends」と同じメロディがギターのみで演奏される。
このシンプルで温かみのあるアレンジが、親近感と、新たな物語への期待感を同時に抱かせてくれる。
「FRIENDS」の余韻を感じさせつつも、そこにとどまらず、新しい物語への一歩を踏み出すのに最適なオープニングだ。
SNOW / 孤独
冬の冷たさや静寂の中に感じる孤独感が、繊細に表現されるバラード。
オープニングで飛び込んでくるピアノの音が、リスナーを一気に楽曲の世界観に引き込んでいく。
ドラムとベースの音を左右に振り分けることで、楽曲全体のステレオ空間が広がり、風景の空気感をより立体的に感じることができる。
また稲葉さんのファルセットが持つ儚さが、閉ざされた感情を切なくも美しい形で描き出す。松本さんのギターは、静けさを尊重したアプローチで演奏され、冬の景色の輪郭を優しく浮かび上がらせている。
それらが見事に調和し、「SNOW」の冷たさと温かさが共存する世界観が、見事に作り出されている。
Aメロでは、自分自身の内面に深く沈み込んでいく様子が歌われている
“寒い暗い夜は嫌だ 女々しい物思いに耽る
たばこの灯りは 眠れぬこころ照らす”
静かながらも深い感情のうねり。孤独な時間を、少しでも埋めようとたばこに慰めと安らぎを求める。こんな夜に自分を照らしてくれるのが、たばこの灯だけという状況が、全体的な孤独感をより一層引き立てている。
Bメロでは、本当の孤独をまだ深く理解できていない未熟な自分への不安と恐れが表現されている。
“本当にひとりになったことないからね
自分の強さも知らない”
自分の「強さ」への漠然とした自負は、実は幻想に過ぎないのではないか。実際には自分が思い描いているよりも弱く、脆いかもしれない心。
サビでは、嘘と真実、弱さと強さの間で揺れる主人公の複雑な心情が映し出されている。
“あのときどうしてうそをつかなかったのだろう
偽りばかりで暮らしてたはずなのに”
偽りに頼りその場をやり過ごしていた弱さ。真実を伝えたことで感じた痛みと苦しみ。
その選択の正しさ強さの在り方を、自分に問いかける。
そんな主人公の気持ちを感じ取ることができるような松本さんのギターソロに続くかたちで、楽曲のハイライトとなる最後のフレーズが歌われる。
“踊れ 雪よ やまないで今は
溜め息を 優しく吸い込んで
つもれ この世の悲しみを全部
深く 深く埋めてしまえ”
静かに降り積もる雪の美しさやその動きに、心の痛みを浄化してほしいという切実な願いが込められている。
この曲のもつ独自の冷たさと温かさが、冷たく閉ざされた心に寄り添い、そのままの感情を受け入れることを肯定してくれる。
この曲はきっと、迷いを抱えるリスナーの 気持ちを癒し心を浄化してくれるだろう。
傷心 / おびえる
フュージョンテイストのサウンドが、都会的で大人っぽい雰囲気を醸し出す。そんなジャジーなナンバー。
傷付くことを怖れ、距離を置こうとする主人公と、つながりを求める「君」。
「君」の存在が新しい希望であるにもかかわらず、 再び誰かとつながることへの恐怖が心の中にある。未来に向かう意志よりも、現状の葛藤や停滞がクローズアップされ、非常に内省的でリアルな心情が描かれている。
松本さんのジャズ的なアドリブ感のある歪みを抑えたギターソロは、その成熟したアプローチで「傷心」の繊細で内向的な世界観をさらに引き立ている。
2番のAメロでは、関係が冷めた後に残ったのは痛みや心の傷だけという、主人公のかつての喪失感が歌われる。
“求めあい過ぎるのが人情
花火のようにはじけ散って後遺症”
お互いの存在を必要以上に求めることで、感情的なバランスが崩れていき、やがて破綻してしまう。
「後遺症」という言葉が示すように、過去の行為や出来事がもたらした影響が、今なお主人公の心を縛っていることがうかがえる。
2番のBメロでは、自分自身の心の壁が映し出されている。
“どうして君は僕に微笑んでくれるの
一体どんな「つながり」を夢見ているの”
「君」の微笑みという無条件の優しさを素直に受け止めることができない。その行為の裏にある意図を探ろうとする。それは過去の傷による防衛本能だろう。
そして最後のサビでは、主人公の心の葛藤と防衛本能が鮮烈に表現されている
“燃え上がるのが怖い 灰になるのが怖い
なにも見えない 聞かない 問いには答えない
優しくしないで これ以上はどうかおねがい
あの日のようにまた 自分が分からなくなるよ”
新たな関係への「拒絶」という明確な意思が、稲葉さんのエネルギッシュな歌唱によって伝えられる。叫びのような歌声が、内面的な痛みと、生々しい感情を浮かび上がらせている。
「傷心」は、無理にポジティブな結論を提示せず、主人公の内面にある不安や恐れ、傷つくことへの拒絶をそのまま描いている。
ネガティブな感情を肯定するリアリティが、自分の感情を代弁してくれるような楽曲として、多くのリスナーの心に刺さるはずだ。
BABY MOON / もどかしい
ボサノヴァの要素を取り入れた異色のナンバー。ボサノヴァ特有のリズムやメロディラインは、軽やかさがある同時に、深みのあるアダルトな魅力もあり、心地よい浮遊感を生み出している。
曲からは、夜のビル街や大人の落ち着いた時間が連想され、都会的な雰囲気が醸し出されている。
物語性や情景描写が豊かなこのアルバムの中で、リスナーに新たな感性を届けてくれるそんなバラードだ。
Aメロでは、やり場のない寂しさや焦燥感を抱えている現代的な都市生活の情景が描かれている。
“何度電話しただろう
受話器置いてもう出かけよう
さみしい首都高 憑かれたように走れ
いやいやでも 仕方なしでもいい 部屋に入れて
月はオレンジの頼りない baby moon”
この「baby moon」には、主人公が抱える迷いや孤独、不安定な感情がそのまま映し出されている。まだ、満月のような美しさや力強さをもって輝くことはできないのだろう。
サビでは、主人公の切実な感情や苦しみに、笑顔という微かな希望と愛情で応える「君」の女性像が描かれている。
“今夜 ダメになりそう
他に行く所も特にない
Ah こんな僕を見ても
君は可愛く 笑ってるだけでしょう”
どこか衝動的で焦燥感に満ちた主人公。一方、その未熟な感情に簡単に応じることなく、自分のペースを崩さない成熟した「君」。
簡単には共感を見せないその態度や存在感が、手の届かない魅力となり、さらに主人公の感情を心をかき乱すのだろう。
そんな二人の関係は、ボサノヴァによって美しく彩られ、アダルトな恋愛の空気感と物語性を一層強調している。
寒さと静けさが漂う静かな冬の夜に、ぜひとも聴いてほしいナンバーだ。きっと素敵なひとときを作り出してくれる。
sasanqua ~冬の陽
松本さんのギターによるインストゥルメンタル曲。
温かみのあるサウンドが、冬の寒さの中に差し込む陽光のように、感情的な緊張を優しくほぐしてくれる。
静かで穏やかな時間を与えてくれるナンバーだ。
ある密かな恋 / 平穏
夢の中と現実の間で揺れ動く感情。現実では決して実現しない恋に対する甘美な孤独感と、それが切なくも癒しとなる情景が描かれている。
自分の中で完結する愛情というテーマを、スローファンクのリラックスしたグルーヴ感で巧みに描き出しているバラードだ。
サックスの音色がもたらす洗練されたムードが、楽曲全体にエレガントで大人っぽい雰囲気を与えている。
松本さんのギターは、その雰囲気を最大限に引き出しながらも、ソロパートでは、曲のムードを一変させるほどの荒々しさ持った感情的なプレイが展開される。このコントラストが曲に劇的な起伏を与えており、 リスナーに強烈な印象を残している。
また稲葉さんの歌声も、主人公の感情の起伏を余すところなく表現している。自分だけの想いという親密さを感じる感情から、その想いが抑えきれず溢れ出していく感情まで、その表現の幅が秘めた恋心のリアリティを際立たせ、曲全体にドラマティックな展開をもたらしている。
AメロからBメロにかけて、現実には存在し得ない完全な相思相愛の関係にある、理想的で甘美な恋愛のひとときが描写される。
“夢の中で また君と付き合えた
なんだかとても楽しそうに待ち合わせ
くびれた腰に手なんかぐっとまわしちゃって
やらしいね あの感じはかなりいい
お互いずっと探し求めていた相手に 会えたようなふたり”
穏やかなサウンドとスローテンポなリズムが、夢の中の浮遊感や心地よい世界観とマッチして、リスナーを主人公の夢の世界に引き込み、まるでその情景を一緒に体験しているかのような気分にさせてくれる。
サビでは、主人公の葛藤が単なる苦しみではなく、そこにどこか静かな幸福感が漂っている。
“だれにも話せないね こんな恥ずかしい話
いつになってもこの思い伝わることはない”
その感情を決して表に出せない切なさ。それでもどこか満足感や充足感を見出しているようなニュアンスが感じられる。
2番のサビでは、人間らしい現実的な葛藤と弱さ、そして選択が描き出されている。
“彼女に話せるわけない こんなやばい気持ちを
いまさら何も捨てられない 小心者の恋”
恋人を裏切る感情に罪悪感を抱きつつも、その秘めた恋心に感じる充足感や心地よさ。
現実の生活を捨てることができない弱さと自分の欲望に忠実になりたい気持ち。現実との折り合いから自分の弱さを認め、状況を維持しようとする選択。
でもきっと、それでいいのだろう。もっといえば、それ以外に選択肢はない。そもそも「君」は想像上の恋人であって、「彼女」はただの現実の人間だ。必然的に「彼女」は不完全であり、誰だって、空想の世界みたいに完璧にはなれない。
それは、人間なら誰しもが抱く理想と現実のギャップだろう。
そして、この曲の最後のフレーズでは、夢と現実の曖昧な境界線を漂いながらも、切なさとその受容が織り交ぜられた繊細な感情が表現される。
“君を想って この後ずっと 生きてゆこう それでいい
君を想って この後ずっと 頑張ってゆこう 何も変わらない”
「何も変わらない」とつぶやきながらも、そこに前向きな空気が感じられる。きっと誰もが自分の気持ちが報われない恋に向き合う切なさを経験しながら、そして、自分が選んだ未来へと進んでいくのだろう。
切ないけれどどこか温かみのある世界観が、その心をそっと包み込んでくれるナンバーだ。
きみをつれて / 生き生きとした
「FRIENDS II」のラストナンバー。
情感豊かなサックスの音色が高級感を漂わせるジャズの雰囲気を纏ったバラード。
時間の経過と関係の変化。過去を振り返りつつもそこにとどまらず、これまで以上に情熱的で挑戦的な生き方や愛の形を追求する意思が描かれている。
稲葉さんの透き通るようなボーカルが、その旅路の視覚的なイメージを描き出し、まるでその場所に立っているかのような気持ちにさせてくれる。
松本さんのギターソロは、これまでの楽曲で積み上げられてきた感情を総括するような圧倒的な存在感を放つ。力強い音の一つ一つが、リスナーの感情を揺さぶり、感動的なフィナーレへと導いている。
そして曲の最後にはサビのメロディが、ピアノの独奏により奏でられる。最後に訪れる静けさが「完結」ではなく、何か新しい始まりへを予感させてくれる。
そんなラストナンバーらしい余韻の残る美しい曲構成となっている。
1番のA〜Bメロでは、新鮮さや刺激に頼る、そんな関係に限界が来ているという現実が描かれている。
“君と知り合いになってから
かなりの時間が過ぎた
何もかもが新しく
浮かれたようにはしゃぎ続け
禁断の果実をむさぼる そんな暮らし
長くはもたないね”
「禁断の果実をむさぼる」という表現には、強い欲望や魅力に引き寄せられ、そのままの感情や衝動に身を任せていた関係が描かれている。
それでも無限に続く刺激などないのだろう。
1番のサビでは、これまでの日常の枠や既存の価値観を超えて、未知の世界に足を踏み入れる願望が描かれている。
“行ってみたいよ 君をつれて
名前のない場所に
見わたすかぎり 風の強い砂漠で
彷徨い歩く”
「風の強い砂漠」という景色は、 目的が定まらない状態や迷い、 困難という暗示を含みながらも、自由や冒険や新しい可能性への希望を象徴しているように感じる。
2番のA〜Bメロでは、失敗や挫折に向き合いながら、それを乗り越え持続的な関係を築いていこうとする前向きなメッセージが歌われている。
“いいかい これは繰り返しじゃない
だから臆病にはなるな
人は過去に学び 前に進むはずだ
自分に言い聞かせて また転がろう
きっとまだ楽しめる”
「また転がろう」という言葉には、安定や落ち着きを選ぶのではなく、これまでの経験を活かした成熟した形での情熱や刺激を求める姿勢が表現されている。
それは若さゆえの無計画な衝動ではない。人生や愛が単調にならないように、常に新しい冒険や刺激を追い求めたいというポジティブな姿勢だろう。
最後のサビでは、過去の足跡をたどりながら、新たな目的地への道を切り開いていく様子が 描かれている。
“もう一度だけ 君をつれて
旅をしてみたい
知らないうちに 忘れてきたもの探し
道をたどる”
限られた時間や機会に対する切迫感と情熱。「もう一度だけ」という言葉からは、今、この瞬間が最後のチャンスであるかのような意識が伝わってくる。
最大限に努力する生き方。いつまでも先に進めないという状況から飛び出していく主人公たちを見送りながら、 曲はエンディングをむかえる。
「この関係を続けよう」という決意と覚悟が表現されているこの曲は、恋愛による深い関係を築いていくための勇気を与えてくれるだろう。
君を想って この後ずっと 生きてゆこう
それでいい