至福

INABA / SALAS No.:BMCV-8074「ATOMIC CHIHUAHUA」-何でもない今日に響く音楽-

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“「何でもない今日」を生きる私たちに”

INABA/SALASの3枚目のアルバム『ATOMIC CHIHUAHUA』

派手な装飾や過剰な演出に頼らず、内側からじわじわと湧き上がる感情─そのままじゃ言葉にならなかった気持ち─を少しだけ輪郭づけてくれる。

洗練されていながらも、確かな熱を感じさせるサウンドに仕上がっている。

特別な日じゃなくていい。嬉しいわけでも、悲しいわけでもない、ただいつもの日。そんな“何でもない今日”にふと耳を傾けたくなる音楽がある。

『ATOMIC CHIHUAHUA』は、まさにそんなアルバムだ。

感情がどこにも向かえないまま立ち尽くす「私たちの日常」に、そっと重なってくる作品。誰にも見せてこなかった“自分だけの声”に、じっと耳を澄ませるような時間をもたらしてくれるはずだ。

Release:2025.02.26

INABA/SALAS 『ATOMIC CHIHUAHUA』
created by Rinker

【熱狂的】×「YOUNG STAR」

『ATOMIC CHIHUAHUA』の幕開けを飾るのは、エネルギーに満ちたロック・ナンバー。

印象的なギターリフ、骨太なドラム、そして奥行きを与えるシンセサイザーのサウンドが見事に融合し、聴いた瞬間から胸を打つ。アルバム全体のムードを一気に高める、まさにオープニングにふさわしい一曲だ。

現実と折り合いをつけながら日々を生きるなかでも、かつて憧れたスターたちの輝きは今も変わらず、進むべき道を照らしてくれる。

その存在への深い感謝とともに、彼らの輝きがいつしか自分自身の中にも宿っていることに気づかされる─そんな希望と再生のメッセージが、この曲には力強く込められている。

理想と現実の狭間で輝く「YOUNG STAR」— 夢を追い続けるすべての人へ

A〜Bメロでは、自身の内に秘めた夢と情熱、そして成長への強い意志が表現される。

I am 夢見てるboy
ただミュージックに飢えるboy
ここはグンと背伸びしてニューウェーブ
目指すのはYOUNG STAR

ここで描かれる「YOUNG STAR」は、単なる成功したロックスターではなく、理想の自己像や未来へ向かって輝く象徴そのものだ。

年齢や現状に縛られない自由な想像力と挑戦心こそが、音楽を通じて前進するための原動力になっている。

サビでは、理想と現実の狭間で揺れ動く心情がストレートに響く。

C’mon たまんないね
何時間でもここにいたいね
そうだろ? Ahhhh
C’mon 知ってるぜ
社会ってのは容赦がないぜ
どうなんの? Ahhhh C’mon

夢中になれる瞬間に浸っていたいという欲求と、避けられない現実の厳しさ。その間で揺れながらも、「どうなんの?」という問いかけには、未来への希望が垣間見える。

そこには、それでも希望的な未来へ進んでいけるはずだろ?というメッセージが込められているように感じられる。

ポストコーラスでは、その瞬間の感動や興奮、時代や現実の厳しさに左右されない「YOUNG STAR」の輝きを全力で肯定している。

最高だぜYOUNG STAR
愛しとるでYOUNG STAR
永遠のYOUNG STAR

その存在への深い愛情と憧れは、過去の思い出ではなく、自分の中に確かに息づく価値や輝きへとつながっている。

この曲は、夢を追い求める自分自身を肯定し、心の中に燃える情熱を再確認させてくれる。

そしてINABA / SALASという「YOUNG STAR」が、新たなサウンドを通じて、私たちの日常に彩りと力強いエネルギーをもたらしてくれることに、心から感謝したい。

■ まとめ

「YOUNG STAR」は、ただのオープニングトラックにとどまらず、リスナーそれぞれの中にある“消えない輝き”を呼び起こしてくれる一曲だ。

過去でも未来でもなく、「今この瞬間」の自分を信じて、もう一歩踏み出す勇気をくれる。そんな力強さと優しさを併せ持ったサウンドとメッセージが、心に深く響いてくる。

あなたの中に眠る熱い想いを再び燃え上がらせてくれるエネルギー。この曲を聴いて、自分だけの“YOUNG STAR”を見つけてほしい。

【神経が高ぶる】×「EVERYWHERE」

切なくも力強いエモーショナルなロック・バラード。

「Everywhere」は「どこでも」「あらゆる場所に」という意味だ。曲の文脈から「どこにでも存在する」「常に一緒にいる」といったニュアンスが感じられる。

イントロで奏でられるエレキギターのアルペジオの、その哀愁漂う響きがリスナーを楽曲の世界へと誘いこんでいく。

サビでは、メロディが一気に広がり、エモーショナルなサウンドへと変化する。特に印象的なのは、稲葉浩志のボーカルの熱量だ。静かに語りかけるようなAメロから、感情を爆発させるように歌い上げるサビへと向かう流れが、この楽曲の最大の魅力と言えるだろう。

歌詞の持つ詩的な世界観を、彼の力強い声がより鮮明に描き出している。

『EVERYWHERE』が映す過去と現在の交差点

A〜Bメロでは、時間の移ろいとともに変化する情景が、二人の関係の比喩として表現されている。

抜けるように青い空の
端がしだいに赤みを帯びる

君と僕はなぜ
あんな素敵な色合いで
混じりあえたんだろう
なんて不思議

「しだいに」という言葉のニュアンスが、一瞬で変わるものではなく、時間をかけて少しずつ変化していくことを示している。自然な流れの中で成熟していく二人の関係が描かれている。

「混じりあう」という言葉からは、二人が単に一緒にいるだけでなく、互いに影響を与え合いながら、一つの関係を築いていく様子が伝わってくる。

ここで注目すべきなのは、「あんな素敵な色合いで」という部分。これは単に「混じった」だけではなく、「美しく調和している」というニュアンスが込められている。

最後に「なんて不思議」という言葉が加わることで、この混じり合いが必然ではなく、偶然や奇跡のように感じられることが強調されている。

夕焼けはやがて夜へと移り変わっていく。その先に待っているものが「静かな安らぎ」なのか、「寂しさ」なのかは、サビ以降の歌詞次第。

「二人は変化しながらも美しく混じり合い、強い絆を築いた」のか、あるいは「美しく混じり合ったけれど、それは長くは続かない儚いものだった」のか。

どちらの方向へ進むのか、サビの内容をみてみよう。

サビでは、離れてしまった今も、かつて深く混じり合った「君」の存在が「圧倒的な存在感」として消えずに残り続けているという切ないストーリーが描かれている。

You’re everywhere
交差点のざわめき
You’re everywhere
溢れてる 溢れてるいつも

“You’re everywhere”(君はどこにでもいる)というフレーズには、シンプルながらも非常に奥深い感情が込められている。

物理的な「everywhere」ではなく、記憶の「everywhere」。

「everywhere」という単語には、「部分的にいる」のではなく、”全体に広がっている” というニュアンスがある。つまり、単に「ふと君を思い出す」のではなく、「君が世界のあちこちに広がっているように感じる」 という感覚が表現されている。

「どこにでもいる」ではなく、「いないのに、どこにでも感じる」 という逆説的な感情。

無数の人々が行き交い、すれ違っていく交差点。きっとこれが二人の関係の「現在地」を象徴しているのだろう。

この情景は、まるで過去と現在が交差する瞬間のようでもある。

そして「溢れる」という言葉には、単なる「思い出す」や「忘れられない」といった言葉にはない、もっと生々しい感情の揺らぎが感じられる。止めたくても止められない、胸の奥から自然にこぼれ落ちる想いが表現されている。

ブリッジパートでは、相手とまだ繋がっていたいという切実な願いと、もう離れてしまったかもしれないという寂しさの両方が感じられる。

一緒に写ってる写真 どれか

同じやつが好きだといいけど

「写真」は、それまでの歌詞で描かれていた「記憶」とは明確に異なる存在。

「同じやつが好きだといいけど」このフレーズが意味するのは、その写真が、お互いにとって、今でも同じ意味を持っているのかどうかということだろう。

過去を共有したことは確かでも、現在の二人の感じ方が違ってしまったら、もはやその写真は「二人の写真」ではなくなってしまう。

記憶は溢れるのに、写真はただ静かにそこにあり続けるというコントラストが、リアルな切なさを鮮明に表現している。

この曲は、大切な人との記憶を強く心に刻んでいる人、あるいは過去の関係を思い返してしまう人の心に深く響く一曲だ。

■ まとめ

時間が経っても消えない想い、ふとした瞬間に溢れ出す記憶、そして変わらずそこにある写真。それらが織りなす情景は、聴く人それぞれの胸に静かに、そして深く染みわたっていくだろう。

過去と現在の交差点に立つような切ない感覚。聴いたその瞬間から、あなた自身の物語と重なり始めるこの曲を、ぜひ聴いてほしい。

【興奮状態】×「Burning Love」

INABA/SALASらしいグルーヴィーなロックが炸裂する「Burning Love」は、ダンサブルなサウンドとキャッチーなサビが魅力の一曲だ。

スティーヴィー・サラスのファンキーなギターと、稲葉浩志のエネルギッシュなボーカルが絶妙に絡み合い、熱量の高いサウンドを構築している。

エレクトロ要素をギターに取り入れたアレンジが、ロックの熱量と融合し、独特のノリを生み出している。特に、稲葉さんがグルーヴ感を意識してアレンジしたサビは圧巻で、聴けば自然と身体が動き出すはずだ。

踊れるロックを体感したいなら、「Burning Love」は間違いなくオススメの一曲。

燃え上がる愛か、燃え尽きる愛の終焉か

「Burning Love」というタイトルは、燃え上がる愛の情熱を指しているのか、それとも燃え尽きる愛の終焉を意味しているのか—この楽曲はその両面を内包している。

Aメロの歌詞では、裏切りと喪失感が描かれている。

もう変わるなんて
さんざん喚いてたんじゃない
今夜も帰ってくる気配はないじゃない
シャツから知らない匂いが舞い
約束など消し飛んでく将来

変わると誓ったはずの相手は、今夜も帰らず、シャツには知らない匂いが残る。そして、かつての約束は消え去り、未来は見えなくなっていく。

これは、まさに愛が終わる瞬間の激情を切り取ったものだろう。

サビでは、燃え尽きて冷たくなるのではなく、怒りや未練、諦めきれない感情が火花を散らしながら燃え続ける様子が表現されている。

Burning Love 愛が暴れ
息は荒くなる
神様、毎度こうなるのはなぜ
Burning Love 愛にやられ
カラダ熱くなる
涙よ野となれ山となれ

愛の激しさと、それによる混乱や苦しみ。愛するたびに傷つき、思い通りにいかないもどかしさを抱えながらも、心の奥ではまだ燃え尽きない感情がくすぶっている。

しかし、その激情の果てに待っているのは、完全な絶望ではない。すべてを手放し、運命に委ねるような境地へとたどり着く。

「涙よ野となれ山となれ」というフレーズが示すのは、もはや抗うことをやめ、感情の行き先を受け入れる瞬間—それは、悲しみの先にある空虚さではなく、解放感なのかもしれない。

ブリッジパートでは、自らの感情に疑問を投げかけていく。

もしかしたらこの感じを
望んでるのは私なの?
転がりつづけて愛で焼けこげる

どこかでその激情を求めている自分がいるのではないという自己矛盾や無意識の欲求。

「転がりつづける」という表現は、理性では止められない状態を示唆しているのだろう。苦しみと快楽、破滅と情熱が共存する愛の形がここで強調されている。

燃え上がる愛の激情と、燃え尽きる愛の終焉が交錯し、抗えない愛の渇望と解放の瞬間が表現されている。

愛の苦しみさえ求めてしまう感情に共感できる人には、この曲がより深く響くはずだ。

■ まとめ

愛の激しさや切なさを知るすべての人の心に寄り添い、胸の奥に秘めた感情を呼び覚ましてくれるだろう。

感情の渦を真正面から描いた一曲として、聴く人の心に深く刺さるはずだ。

【思いにふける】×「DRIFT」

本作の中でも異彩を放つ「DRIFT」は、繊細で内省的なバラード。静けさの中に感情を封じ込めたようなサウンドが最大の魅力だろう。

スティーヴィー・サラスによる実験的なアプローチが、稲葉浩志のソウルフルな歌声と融合することで、まるで壮大な映画のワンシーンのような雰囲気を生み出している。

メロディは切なく、繊細なピアノやアコースティックギターが織りなす音色が、どこまでも漂うような浮遊感を生み出している。

まるで波にそっと押し流されるような感覚が広がり、タイトルの「DRIFT(漂流)」が示す情景とも深く響き合っている。

メロディは大げさに盛り上がるわけではなく、まるで感情の波打ち際のギリギリのところで止まっているような絶妙なバランスで成り立っている。

曲全体に漂うのは、切なさや儚さを内包しながらも、どこか抑制された静けさ。特にサビの部分では、ぐっと開放される直前のような緊張感があり、それが逆に聴き手の心を引きつける。

稲葉浩志のボーカルも、爆発的に感情を放つのではなく、あえて抑えた表現で、聴く側に余韻を残すような歌い方になっているのが印象的だ。

この微妙なバランス感覚こそが、「DRIFT」を特別な楽曲にしている要素のひとつかもしれない。何度も聴くほどに深みを増していく楽曲となっている。

希望の点滅が照らす漂流船の行方

Aメロでは、まさに「DRIFT(漂流)」というタイトルにふさわしく、どこへ向かうこともできず、ただ流されているような心理状態が描かれている。

闇に浮かぶ部屋にひとり
心は止まり
思い通りじゃない日々に
とらわれたまま

「闇に浮かぶ部屋」という表現は、単なる暗い部屋ではなく、まるで世界から切り離されたような孤独感と停滞感を強調しているように感じられる。

流されるままに日々が過ぎていく感覚、あるいは自分自身の意思ではどうすることもできない状況が続いていることを象徴しているのだろう。

サビでは、Aメロで描かれた停滞感や孤独感をそのまま継続しながらも、より大きなテーマへと広がっていく印象を受ける。

流れ流れどこに行くの
同じ場所目指してるの
わかってる
時は戻せないと
波の狭間揺れる漂流船

「漂流船」という言葉には、自ら舵を取るのではなく、波に身を任せる存在というニュアンスがある。明確な目的地がなく、ただ流されるままになっている様子が描かれている。

しかし「ただ流される」ということは、必ずしも絶望だけを意味するわけではない。

「漂流船」はまだ浮かび続けていることで、どんなに苦しい状況でも「どこかへたどり着く可能性が残されている」という希望の象徴とも考えられる。

ラストのサビでは、わずかに前向きなニュアンスが加わり、迷いながらも希望を手放さない心情が感じられる。

流れ流れどこに行くの
同じ場所目指してるの
それでも何かを信じていたい
陽射しに灼かれて
覚えてるいつか無邪気に
描いてた僕らの航路(みち)を探してる
希望の点滅を僕ら
ふたりだけの漂流船

「陽射しに灼かれて」というフレーズは、希望や未来への憧れが、ときに自分を苦しめる要因にもなることを示唆している。

希望が苦しみを生むこともある。希望を持ち続けることの痛みや、理想と現実の間で揺れる苦しみ。それでもなお、「信じていたい」と願う心情が、続く歌詞で表現されている。

「希望の点滅」という表現が示すのは、希望が決して消えてしまったわけではないが、安定しているわけでもないという不安定な状態だろう。灯台の光のように、一瞬見えたかと思えば消えてしまうような、そんな頼りなさが表現されている。

そしてラストのサビでは「ふたりだけの」と明記されており、共に流されながらも進んでいく存在が強調され、この曲のテーマが大きく変化している。

ただ波に流されることが「迷いや停滞」だけを示すのではなく、「一緒に流れながらでも進んでいくことの価値」を伝えている。

迷いの中でも“希望の点滅”を見つめる姿勢。確信に満ちた希望ではなく、不確かで揺れるけれど、それでも信じていたい何か。そんな繊細な希望が表現されている。

“迷いながら生きること”そのものに意味を見出そうとする、非常に静かで力強い楽曲。

人生には、明確な答えが見つからないまま、それでも歩みを止めることなく、流されながらでも進んでいくしかない。迷いながらも前を向きたい。その気持ちに、この「DRIFT」という漂流船は、きっと寄り添ってくれる。

■ まとめ

この「DRIFT」という楽曲は、派手なカタルシスを用意するわけではない。ただ、揺れ動く心の奥底にそっと触れ、「それでも、進んでいこう」と語りかけてくれる。

答えが見えなくても、思い通りにならなくても、誰かと共に、たとえ不確かな光であっても「希望の点滅」を信じて進む—そんな生き方そのものを、この曲は静かに肯定してくれている。

音数を削ぎ落としたサウンド、美しく抑制された稲葉浩志のボーカル、そして漂流というテーマを通して描かれる、“揺れながら生きること”のリアリティ。

どこまでも静かで、深く、温かい。

迷いの中にいる誰かにとって、「DRIFT」は、心の奥で確かに灯り続ける一筋の光になる。そんな1曲として、じっくりと耳を傾けてほしい。

【驚いている】×「LIGHTNING」

「LIGHTNING」は、ドライブ感のあるストレートなサウンドと、人間味あふれる世界観が描かれている。

まっすぐで正直で、でも不器用で―だからこそ、心が揺さぶられる。そんな“人間らしさ”を音と言葉の衝動で描き切ったロックナンバー。

洗練されたサウンド、シンプルな曲構成、だけど、奥深い。そんな、この一曲に詰まった“LIGHTNING(稲妻)”の衝撃を、ぜひその耳と身体で受け止めてほしい。

その感情は稲妻のように激しく、美しい

Aメロでは、強くて、不器用な「あなた」へのまなざしが描かれている。

がむしゃらに生きてるから(ha)
疲れしらずだって噂(ha)
飾らない言葉で修羅場(ha)
意図せず誰かを泣かしちゃう(ha)

がむしゃらで、正直で、だからこそぶつかってしまう。まるで無防備なまま疾走する稲妻のような存在。

それは攻撃性ではなく、“不器用さ”の裏返し。

語尾につけられた「(ha)」という相槌が、そんな相手を、愛おしく見つめる視線のように響く。

Bメロでは、器用に生きられない「あなた」を、ただ受け止める姿勢が表現されている。

適当にね誤魔化すのがね
苦手だからしょうがない

理解と肯定。だからうまくいかないこともあるよねと、そっと味方になる。それは慰めではなく、そのままの“あなた”を認める姿勢。

サビでは、胸を貫く感情の稲妻が描かれている。

もうハンパじゃない愛情の量
そう尋常じゃない思いは炎
気安く触れようものなら
そのハートは連れちまう
アナタイナズマ 愛しき怒涛

タイトル「LIGHTNING」の意味が全面に現れる。「あなた」に抱く圧倒的な愛情、どうしようもない衝動が稲妻として描かれている。

激しくて、危なっかしくて、瞬で心を奪っていく存在。その“怒涛”のような感情を「愛しき」と受け入れる主人公の愛情が、この表現にグッと詰まっている。

■ まとめ

「LIGHTNING」は、誰かの不器用さを責めるのではなく、その奥にある愛の深さや、誤魔化せない真剣さにまなざしを向けた一曲だ。

まっすぐすぎるがゆえに、誤解されること。感情が強すぎて、うまく伝えられないこと。
それでも誰かを大切に思う気持ちは、本物であるということ。

そんな“強さと危うさのあいだ”を抱えた誰かに、あるいは、自分の中にもある衝動と優しさに気づきたい人に、この曲はきっと、そっと寄り添ってくれる。

感情を抱えたまま走り抜ける、稲妻のようなこの一曲をぜひ聴いてみてほしい。

【平穏】×「ONLY HELLO part1」

「さよならだけが人生だ」という言葉がある。

これは、日本の詩人・井伏鱒二が訳した唐詩「勧酒」の一節だ。

そんな避けられない別れを、どう受け止め、どう生きるか─ INABA/SALAS『ONLY HELLO part1』は、その問いに静かに向き合ったバラードだ。

永遠に生き続ける人はいない─遅かれ早かれ訪れる死を、受け入れて、恐れない。

「Hello」という言葉が、その死の受容を包み込んでいく。そんな静かな抵抗と祈りが、この楽曲には込められている。

アコースティックギターの優しいサウンドを主軸に、 ストリングスが重なることで、静けさと温かさが交差するサウンドに仕上がっている。

稲葉浩志の歌声に乗せられた感情が、ひときわ輝きを放っている。

余談だが、ビートルズにも「Hello, Goodbye」という楽曲がある。 「さよなら」と言われても「こんにちは」と返す─その逆説的な対話は、 INABA/SALASの『ONLY HELLO part1』ともどこか通じ合っている。

終わりではなく、HELLOを

Aメロでは、黄昏の風が運ぶ、喪失の余韻が表現されている。

黄昏風はやさしい
一人帰る道滲んでく街灯(あかり)
あなたがいなくなってからは
心の曇り消えないけど

帰り道の夕景と、心の風景が静かに重なるAメロ。 “いなくなってしまったあなた”を想いながら、それでも日常は続いていく。

涙に滲む街灯は、まだ整理しきれない感情の象徴だろう。

どこか現実味がありながら、詩のような抒情性を帯びたこの冒頭は、 “喪失のあとの静かな生活”を思わせる。その不在を受け入れきれないまま、それでも前に進もうとする心の揺れが滲み出ている。

サビでは、その別れを“さようなら”にしないという選択が表現されている。

二度と会えないわけじゃないんだよ
So, we won’t say goodbye
Only hello

「さようなら」を言わないことを選ぶ。 もう会えないと分かっていても、心のどこかで再会を信じている。

たとえその相手がこの世を去っていても─ “いつかまた会える”と信じる想いが、このサビに込められている。 その願いを、別れの言葉ではなく「Hello」というたった一語に託す。

サビが描くのは、喪失を受け入れたうえで、なおも心の中で生き続ける誰かへの、静かな愛情と希望だ。

「Only hello」という一言には、断絶ではなく“つながりを保つ意志”が込められている。 “別れ”の代わりに“こんにちは”を残すことで、未来への希望や、心の中でのつながりを手放さない。

そこには、決して忘れないという意志が示されている。

ブリッジパートは、楽曲の中でもっとも静かで、もっとも深い場所に触れている。

僕らの旅路にはさよなら
だけが積もってゆくの

“出会い”の数だけ“別れ”がある。人生とは、そんな“さよなら”の積み重ねでできている。

それでも、悲しみに飲まれることなく、 最後には「Only hello」と言える自分でありたいという覚悟がにじむ。

この短いブリッジには、“人生=喪失の連なり”という真実を受け入れた上での優しさが宿っている。

そしてMVの最後に映し出される、亡きAmp FiddlerとTaylor Hawkinsへの“RIP”という言葉。それは、音楽が記憶や人の存在を永遠に繋ぎとめるメディアであることを、静かに証明している。

■ まとめ

人生は別れの連続だ。 でもその中で、「さようなら」ではなく「Only hello」を選ぶことができたなら─ それはきっと、誰かを想い続けることの強さであり、優しさだ。

INABA/SALAS『ONLY HELLO part1』は、そんなふうに人生の終わりと向き合いながら、 それでも“HELLO”と手を伸ばすような、祈りのような一曲である。

別れを受け入れるすべての人に、そっと寄り添ってくれる。 この曲が、あなたの心に届く“新しいHELLO”となることを願って。

【至福】×「ONLY HELLO part2」

『ATOMIC CHIHUAHUA』。その最後を飾る「ONLY HELLO part2」は、別れや喪失に対して真正面から向き合いながら、それを静かに受け入れ、やがて前を向く“感情のプロセス”を描いたバラードだ。

会えない誰かを思うあなたへ

part1では、伝えたい想いが言葉にならず、心の中で揺れ続ける様が描かれる。一方のpart2では、その揺れを経て、たった一つのフレーズに感情が収束し、確信へと変わっていく。

There is no goodbye
There is only hello

この言葉は、単なる“別れを否定するメッセージ”ではない。聴いた人それぞれの人生や記憶と結びつき、“癒し”や“勇気”を与えてくれる。

構成上も非常にユニークだ。Aメロ〜サビといった定型はなく、ひとつのシンプルなメロディーとフレーズだけで楽曲が成り立っている。しかし、その反復の中で声の温度が変化し、ハーモニーが重なり、編成が広がっていくにつれて、同じ言葉が“別の感情”を伝えるように響き始める。

これは音楽だからこそできる、静かで強い表現だ。

また、中盤に登場する日本語のフレーズも深い印象を残す。

眠れない夜ならば
あなたを思えばいい

流れてく 雲を縫って
あなたに会いに行こう

この一節は、目に見えないつながりや、心の中の“再会”を感じさせる。現実に会えなくても、心は相手に向かって旅をしている──そんな祈りにも似た静けさがある。とりわけ「雲を縫って」という表現は、見えない距離を越えて想いを届けるような美しい比喩だ。

別れに痛みがないわけじゃない。それでもその痛みを、希望の言葉へと静かに変えていく音楽がある。

■ まとめ

「ONLY HELLO part2」は、別れの寂しさを真正面から抱きしめながら、それを「hello」という希望の言葉に変えていく、優しくも力強い1曲。

たったひとつのフレーズ、変化の少ないメロディー。そのシンプルさの中にある“深さ”こそが、この楽曲の魅力。

言葉にできなかった想いが、音楽のなかで少しずつ形になっていくような感覚。会えない誰かを思いながら、ふと夜空を見上げたときの静けさとあたたかさ。

そんな感情に寄り添ってくれる曲だ。

この曲に派手な展開や技巧的な見せ場はない。でもその分、心の奥に静かに染み入ってくるような温度で、言葉では整理できない感情をそっと包み込んでくれる。

このアルバムを通して感じたこと

派手さはなくても、心にそっと灯がともるような音楽だった。

何かが大きく変わるわけじゃない。けれど、聴き終えたあとには「今日という一日」が、少しだけ違って見える。

『ATOMIC CHIHUAHUA』は、何でもない今日を、少しだけ愛おしくしてくれる一枚だ。

INABA/SALAS 『ATOMIC CHIHUAHUA』
created by Rinker